アロマアーチストに期待されるもの
アロマアーチスト協会 顧問 鎌江 真五
周知の通り、近年、従来型の医学の考え方の限界から、ホリスティック或いは〈場〉(ないしは関係)論的医療のあり方を問う声が高まっている。
おそらく、ここ数年来、精神身体医学関係者から提唱され始めた〈ヘルスアート〉という考えもその路線上にあるのは明らかだ。
ただ、その具体的な内容となるといささか貧弱で、ヨガ・太極拳などの自己運動療法に力点がおかれまだ体系的にはなっていない。
しかし、それにも拘らず、前述のような医療論的な検討に不可欠な論点を含み、提唱の価値は大いに評価されなければならない。
先ず第一に、〈ヘルスアート〉用語の問題である。日常陳腐に使い古されているので何気なく見過ごしてしまうが、
これを改めて意味論的に整理するとその重要性が気付かれる。
つまり〈ヘルス〉概念とは本来なにか?〈アート〉の語源解釈からみた医療技術語上の意味はなにか?の論点を視据えながら、
これと今までの既成用語と対比し、つまりヘルス対シックネス(イルネス)、アート対キュアあるいはテラピーとを意味的に解すれば
前述の〈場〉の医療構築のために是非とも必要な基礎用語とわかるだろう。
さて、難点はその先で、それではそうした観点に適応した療法は何があり、それをどのように日本の実状に適した形で
展開するかという点にある。
まずどのような方法がほかにあるか?これについては、一連のいわゆる五感感性療法とされる
音楽・絵画・造形・園芸・愛玩動物療法はその範疇にある。
ここで、懸案のいわゆる芳香療法(アロマテラピー)はどうか?当然その基本性格から同類に分類されるであろう。
つまり、アロマテラピーはヘルスアートの一環として位置づけされなければならない。少なくとも芳香療法をホリステック云々と
呼称する向きにはそれに同意するだろう。
その前提に立ったとき、現在、日本で普及されようとしているホリステック・アロマテラピーなるものは
その前提を踏まえているかどうか?が問われることとなる。
先ず第一に呼称名称の問題でこれは関連法規との問題にも直結する。
結論的にはテラピー(療法士)を呼称するには現行医療法との適法性が満たされなければならない。
これには、医師・薬剤師・按摩鍼灸師などの公的資格者が相当する。
この点で、イギリスなどの諸外国でのアロマテラピー関連のライセンスは日本では適法とならない。
つぎに問題なのは精油は〈テラピー〉を標榜すれば法的には医療品となり薬事法の関連条項の規制対象となる点である。
これら二点を絡めれば日本で芳香療法を〈業〉として行いうるのは医師と薬剤師のみでそれ以外は厳密に違法行為となる。
こうした観点から、多くのハーブショップが〈アロマテラピー〉用精油を何の疑問もないかの如くに堂々と店頭販売している現状をみると
危惧を感じざるをえない。
これは、ハーブショップの店主の責任というより、自称〈アロマテラピスト〉を公称し、
アロマテラピーという医療類似行為を堂々としているいわゆるアロマ専門家やそれを宣伝する業界誌の責任でもある。
この事態は加速度化しており、おそらく何らかの医療事故により行政の規制が強化される可能性がある。
そうすればアロマアートとしての将来にも障害となり、またせっかく芽生えたホリステック医療そのものが胡散臭い目でみられることになる。
それではどうすればよいのか。前述したように基本的技術観点を従来型の病気治し(テラピー・キュアー)志向から、
美的(ヘルス・アート)志向に重点を移す事である。
これには名称だけでなく技術内容がそれにオリジナルに対応しなければならない。
現在、当協会が行っている講座の主軸であるアロマアート調香は、その課題を踏まえたものとなっている。
もちろん、これは完成されたものではない。
しかし、将来性のある独自技術で単なる自己満足では無い。現に特許庁は、この技術内容と名称の独自性と有用性を認めたが故に
〈アロマアーチスト〉という商標取得を許可したのである。
したがって、ヘルスアート最重要な部門として社会的認知をうる基盤は用意されたのであり、
あとはそれに見合う個々の経験と組織的普及・研究のあり方で決まる。
おそらく今後日本のアロマテラピーはメディケアーの領域に組み込まれていく部分と保健ヘルスケア―に展開するものと
二極分解するであろう。その場合、非医師のなすアロマ領域にはなにが残るであろうか。
おそらくそれは協会の目指すアロマアーチストの独自領域以外にはないのではないか?
もしそれ以外にあるという人がいるならば、是非、協会もその人の教えを乞うべきである。
願わくば、そうであってほしい。それは日本の医療をより最適、快適なものにするためにも多くの知恵が必要とされるはずで、
一個人の発想には当然限界があり、それに止まるということは〈それまでのもの〉にすぎないからである。
いずれにしろ、幸か不幸か協会のオリジナリティーは十分評価されてよく、今後ますます無視できない存在になりうる可能性をもっている。
しかし、そのためにも協会がためすべき仕事は多くある。
建前に見合う経験と理論を高めるには課題が多い。特に、早急に為さねばならないのはホリステック・アロマアートの理論で、
これは、ただアーユルベーダとか漢方の理論を借り物的に述べるだけでは不十分であり、いわゆる東洋芳香理論というべきものの〈各論〉を
整理する作業を急がねばならない。
たとえば、ラベンダーを東洋医学の土壌で使いこなすだけの事例・文献研究を必要としている。
著名なR・ティスランドも東洋医学の文献的総論紹介においては先駆的な仕事をしたがその先の各論提示はやはり能力不足の感がある。
おそらくそれは期待のしすぎというものであろう。
ここはふんばって、協会の組織力を支えに例えば、現在進められている精油の五味性の調査活動を纏め
精油の四気五味論を完成すること。
さらに文献的に精油起源生薬の臓腑帰経学的な整理をすること、アロマ調香法と生薬処方法の理論整合性をさらにたかめること、
ケモタイプ等の組成化学研究から提出された各種データを東洋医学の陰陽理論で展開すること、等々やるべきことは多い。
ただ、現実には、協会員個々ではこうした作業の理解度には差があるのも実状で、もう一度アロマアート(アロマアーチスト)とはなにか
の原点にかえり、現状を視る目を鍛えることが求められる。
そうすれば、アロマアートとは単に新奇をねらった用語でなく十分今日的課題をになう新しいモデルスタンダードと成りうるものと
再確認できるだろう。